憲法第30条 納税の義務
「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」
国民は自分たち自身のために国家を維持しなければならない。だからこそ,構成員たる国民に義務が課されることは当然のことといえる。
通説では 30 条は,国民に対して税金を課する規定と言うよりは,逆に,「法律によらないで課税されることはない」という条件を設定したものとされる。
これを受けて 84 条において租税法律主義を規定し,よりいっそう人権保障が徹底
国民の権利を確保するという積極的な意味を持っている
税額や徴収方法は法律で定める必要から,この規定だけで徴収できるものではないとする。
立憲主義の立場では、憲法に義務を明記する必要性はないという論もある 国民主権の下では,国会の制定する法律に基づき国政が運営されるが,これは国民の自己拘束を意味するから,それに従うべきことは当然である。この場合,法律による自己拘束には憲法の人権保障に基づき限界が画されているから,原理的には義務が無限定となる危険もない。
また国民に対する倫理的指針としての意味,あるいは立法による義務の設定の予告という程度の意味を持つにとどまっている26)とまで言われている。
野中俊彦,中村睦男,高橋和之,高見勝利『憲法 I 第 5 版』(有斐閣,平成 24 年)562 頁。
納税の義務をはじめとした義務規定(勤労の義務,教育の義務)そのものは,格別の意味を見いだしがたいとまでいわれている27)。
長谷部恭男『憲法第 4 版』(新世社,平成 20 年)105 頁。
このような考えには(略)国民の権利を守る=権力を制限するというのが憲法の役割であるとする。憲法自らが国民をしばることはできないということでもある。
日本では,義務の意味を無視しているといっていい状況である。なぜ,その権力に課税権を与えたのか。授権の意味が明らかになっていない。またなぜ国民に義務を課すのか。制限することのみに力点を置いているため,授権や義務を課すこと自体無意味であるようなことが論じされている28)。
中島徹「納税の義務」別冊法学セミナー No210『新基本法コンメンタール憲法』(日本評論社,平成 22 年)251 頁。
「制限」は権力の制限のことであろう